未払い残業代の請求が過去3年間に延長
2020年(令和2年)4月1日から、残業代を含む賃金の未払いは3年前までさかのぼって支払わなければならなくなったのはご存じでしょうか。
もし未払い賃金(残業代含む)があり、従業員の方がその分を会社に請求したら、法的にさかのぼって支払わなければならない期間が決まっています。
その期間が2020年3月31日までは2年間でしたが、4月1日からは3年間になります。※
この記事では、賃金請求権が3年に延長されたことについて具体例とともに解説したいと思います。
なお、この記事は2020年6月1日現在の情報です。3年間という賃金請求期間は「当分の間」であり、いずれ5年間に延長されます。今後の法改正を注視してください。
※未払い賃金があったのかどうか、また未払い賃金額がいくらかについては、従業員と会社の双方で話し合って決める場合や、裁判など第三者によって決められる場合があります。つまり必ずしも従業員の方の請求額どおりに会社が未払い賃金を支払うわけではないことにご注意ください。また退職金の請求できる期間は5年のまま変更ありません。
なぜ未払い賃金の支払い期間が延びた?
2020年4月1日以降、賃金請求権が3年に延びたのは、民法改正の影響です。
細かい話は置いておいて、新しい民法では権利を請求できる期間が原則5年に統一されました。
賃金も、労働に対する対価(請求できる権利)なので、未払い賃金を請求できるのも5年となるはずです。
しかし、これまで2年間だったのにいきなり5年となると社会への影響が大きいということで、当面、3年間とされました。
さかのぼって支払われるべき賃金は具体的にどうなる?
具体的なケースを考えてみましょう。
2015年4月1日入社の労働者に対して、毎月1万円の残業代未払いが発生していた場合、以下①~⑨の時点でこの労働者はいくら未払い残業代を請求できるでしょうか(遅延損害金などは除きます)。
以下①~③は、2020年4月1日から2年を経過していませんので、それ以前と同様に2年分の未払い賃金を請求できます。
2020年4月1日の時点で2年分
1万円/月 × 24か月(2年)=24万円 …①
2021年4月1日の時点で2年分
1万円/月 × 24か月(2年)=24万円 …②
2022年4月1日の時点で2年分
1万円/月 × 24か月(2年)=24万円 …③
以下④~⑥は、2020年4月1日から2年を超えますので、2年を超え3年未満の未払い賃金を請求できます(ただし、2020年4月1日以降の分のみ)。
2022年5月1日の時点で2年1か月分
1万円/月 × 25か月(2年1か月)=25万円 …④
2022年6月1日の時点で2年2か月分
1万円/月 × 26か月(2年2か月)=26万円 …⑤
2023年3月1日の時点で2年11か月分
1万円/月 × 35か月(2年11か月)=35万円 …⑥
以下⑦~⑨は、2020年4月1日から3年を超えますので、3年分の未払い賃金を請求できます。
2023年4月1日の時点で3年分
1万円/月 × 36か月(3年)=36万円 …⑦
2023年5月1日の時点で3年分
1万円/月 × 36か月(3年)=36万円 …⑧
2023年6月1日の時点で3年分
1万円/月 × 36か月(3年)=36万円 …⑨
なお、会社と労働者の労働契約で「2年間だけさかのぼって未払い賃金を支払いますよ」と定めていても今回の改正で3年以上が必須となります。
この記事は2020年6月1日現在の情報です。3年間という賃金請求期間は「当分の間」であり、いずれ5年間に延長されます。今後の法改正を注視してください。
その他の影響
前述の賃金請求期間が3年間に延長されたことと一緒に、賃金台帳等の保存期間と付加金の請求できる期間も延長されました。
賃金台帳等の保存期間も当面3年間に変更されました。
付加金の請求期間も当面3年間に変更されました。
なお、年次有給休暇は2年間のまま変更ありません。
出典
未払賃金が請求できる期間などが延長されます
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