就業規則を作成・変更する際の注意点【中小企業向け】
企業の労務管理という観点から、就業規則や雇用契約書(労働契約書や労働条件通知書でも代用できます)は非常に重要です。
なぜなら労働トラブルは「こんなはずではなかった」ということが原因で起こることが多く、ちゃんとした就業規則や雇用契約書があれば事前に企業と従業員の方の期待をはっきりさせ、労働トラブルを減らすことができるからです。
たとえば「賞与(ボーナス)」。賞与は法律上必ずしも支給すべきものではなく、支給するかしないかは企業が定める事項です。しかし、前職で大手企業に勤めていた方に比較的多いのですが、「賞与はあって当然」と思われている方も一部にいらっしゃいます。そのような方が入社前に就業規則や雇用契約書も見ず、賞与なしの中小企業に転職された場合には「期待外れ」という状況になってしまいます。
したがって、賞与の有無や、賞与ありの場合の評価期間、支給日等を就業規則に明記しておくことによって、企業と従業員のみなさんとで同じ認識を持ち、将来の「こんなはずではなかった」という労働トラブルを減らす効果が期待できます。
労働条件通知書については別記事をご覧ください。
さて、就業規則は会社の規模が大きくなってくると作成および行政官庁への届出が法律上、義務になります。しかし、就業規則のそもそもの目的は、会社の戦略を就業規則(従業員みなさんのルール)へと落とし込み、会社が成長することにあります。つまり法律のような会社の外からの圧力ではなく、会社の内なる動機によって就業規則の内容が決まっていくわけです。
会社の経営戦略や、経営者の方の想いというのは変わることがあります(「成長する」と言ってもいいかもしれません)。ふた昔前ですと朝令暮改という言葉は良い意味では使われていませんでした。しかし変化の激しい昨今、変わっていかなければ相対的に後れを取っていってしまうため、アジリティ(agility:敏捷性)は会社経営にとっては必要な要素です。
そのような状況で、会社の経営戦略やいろいろな想いを込めて就業規則を作成または変更されると思いますが、中小企業の経営者の方や人事担当者の皆さんが意外と忘れがちになることは何でしょうか?
それは「一度作った就業規則は、従業員の不利益になるような変更が原則できない」ということです。もし不利益変更する場合には、従業員の方の個別の同意が必要になることが、労働契約法に定められています。不利益変更に反対する従業員の方が企業を訴えて裁判になったケースもあるくらいです(詳細はまた別の機会に書きたいと思いますが、例えば今まで就業規則で支給すると決めていた〇〇手当を無しにするというケースです)。
つまり、将来、会社の経営戦略は変わる可能性がある一方で、就業規則の不利益変更は原則できないという、ある種のジレンマとなるわけです。「会社の成長のためにどんどん変化していきたい。でも変えたことによって従業員に不利益になるとトラブルになるかもしれない」という状況です。しかし、これを両立することができるような人事戦略があります。
それは
就業規則は全ての従業員に適用されるため、法律を大きく上回るような待遇や内容は記載しない(将来も水準を下げない内容だけを記載する)
特別な取り扱いを適用したい従業員には個別の雇用契約を結ぶ
とするのです。
なぜなら、就業規則は契約と同じ効果を持ちますので、会社の経営状況に関わらず、すべての従業員に対して、どんな状況でも守れる契約内容を就業規則に定めておくようにします。一方で、厚遇も含めて特別な待遇をしたい従業員の方もいらっしゃると思いますので、そのような方には個別の雇用契約で対応するということになります。
例えば、会社全体としては就業規則で「兼業・副業は原則禁止。会社の許可がある場合のみ認める」と定め、従業員の方の個別の雇用契約で「兼業・副業OK」と定めることができます。なお、就業規則で「兼業・副業OK」としているのに、従業員の方との個別の雇用契約で「兼業・副業NG」とするように、雇用契約の内容が就業規則の内容を下回ることはできません。
これを踏まえたうえで、中小企業の戦略が就業規則に落とし込めるような就業規則の作成ポイントを法的な観点からいくつか見ていきたいと思います。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則を必ず作成しなければなりません。また、10人未満であっても、就業規則を作成することが望まれます。なぜなら、将来の「こんなはずではなかった」を防ぐためです。
就業規則は、すべての労働者に適用されるようにすることが必要です。正社員だけでなく、契約社員、嘱託社員、パート、アルバイトにも適用されます。
就業規則には、必ず記載しなければならない事項がありますので記載漏れがないようにします。例えば、始業および就業の時刻や休日、賃金などです。
就業規則の内容は、法令又は労働協約を下回ることはできません。例えばフルタイムの正社員の方には「入社後6ヶ月間勤務で10日有休を付与」すべきことが法律で定められていますが、「入社後6ヶ月間勤務で5日有休を付与」とすることはできません。
就業規則の内容は、事業場の実態に合ったものとしなければなりません。インターネット上の就業規則ひながたを使用するのは非常に危険ですので避けた方がよいでしょう。
就業規則の内容は、わかりやすく明確なものとしなければなりません。将来の「こんなはずではなかった」を避けるための就業規則ですので、分かりやすい内容であることが必要です。
作成した就業規則は、各職場に掲示したりするなどによって労働者に周知させなければなりません。周知することによって就業規則の効力が発生します。
就業規則を作成したり、変更する場合には労働者の代表の意見を聴かなければなりません。
就業規則は、労働者の代表の意見書を添付して、労働基準監督署に届け出なければなりません。
以上が就業規則作成および変更時のポイント概要になります。
他にもいろいろなノウハウがございますので、就業規則や雇用契約書(労働契約書や労働条件通知書)についてお手伝いが必要になりましたらメイトー社会保険労務士事務所までご依頼ください。
社会保険労務士 加藤秀幸
出典
就業規則作成の手引き(厚生労働省) https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/201533119827.pdf
Comments